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2009年3月16日より
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  二人の持ち歩いていた食料と女性のそれとを合わせると、その晩の食卓は豪勢とまではいかないものの、なかなか見栄えのするものになった。女性がガスコンロであぶった魚はなんとも食欲をそそる香りを発していて、思わずシルクが歓声を上げたほどだった。

「おいしそう。焼き魚なんて、何日ぶりだろう」

「好きなだけたべてね。魚は結構たくさんもらっているから」

 と女性が言った。

「そういえば、食料とかはどうやって手に入れているんですか?」

 と、これは少年。

「二日に一度、輸送屋さんが寄ってくれるの。生活必需品は大体そろえてくれるから、それで」

「ああ、なるほど」

 と少年は相槌を打った。輸送屋というのは大陸で戦争被害にあった人たちに、慈善で生活物資を送っている人たちのことだった。

「あ、そうだ。ちょうど明日彼らがやってくる日だから、隣街に行くんだったらついでに乗せて行ってもらったら?」

「え、本当に?乗っけてもらえるの?」

 女性の言葉にシルクが真っ先に飛びついて、そんなに歩くのが嫌なのか、と少年はあきれた。女性は、

「ええ、きっと。気立てのいい人だから」

 といって微笑んだ。シルクはよかった、と胸をなでおろし、

「次の街までまだまだあるから、このままだと街に着くまでに倒れちゃって、ハルトにすごく迷惑がかかるな、って思ってたところだったの」

「別に、僕はシルクが倒れても迷惑しないけど?」

「は?なんでよ」

「倒れて歩けなくなったら、潔くシルクを見捨てて一人で行くから。でもまあ、どうしてもって言うんなら引きずってつれてってあげてもいいけど」

「な、なによそれ。ハルトの鬼、あくま、人でなし」

「はは、冗談だって、冗談」

「ハルトの冗談、全然冗談に聞こえないよ」

 二人が言い争っているのを、女性は優しげな光をその瞳にたたえつつ、静かな微笑で持って、眺めていた。

 もしかしたら、今ここで広げられている光景に女性はある種の郷愁じみたものを感じているのかもしれない、と二人は思った。





 世界に見捨てられたようなこの地に夜が満ちるのは、早い。

 客人である少年と少女とが寝静まったのを確かめてから、彼女もまた自分の寝床にもぐりこんだ。

 アルコールランプの火を消すと、完全な暗闇が部屋の中に立ちこめた。その中でふと泡のように浮かんでくる記憶が一日の中でもっとも彼女を苦しめるといっても過言ではないだろう。少し気を抜いただけでまとわり着く過去のビジョンは、もちろん幸福だったあの頃をしのぶためだけのものではないのだった。

  それは、戦争の記憶だった。

   目をつぶしてでも耳を引きちぎってでも見たくなかった、聞きたくなかったあの記憶が、それなのにどうしても直視せざるを得なかったあのヴィジョンが、鼓膜と網膜とに焼き付けられて、消えてくれないのだ。

  ここで父が死に、そこで妹が殺され、あそこで母が絶命した。

  飛び交う銃弾と、毒槍と火炎とが、次々と人の命を炙り出していった。純粋な死への恐怖が足をすくませ、生き延びたと知った後には独りになったことへの恐怖が、後悔を生んだ。どうしてあの時、彼らと一緒に死ぬことができなかったのだろうか、と死ぬほど悔やんだ。

  今でも壊れたレコードのように繰り返すのは。

  銃声と、怒号と爆音と。

  そして逃げ惑う人々の、悲鳴だった。

   夜が怖い、と泣き叫んでいた少女時代の、それのどれほど平和な夜だったことか、と彼女は思う。

  一度世界の絶望を移したこの目には、もうどんなことも恐怖としては映らない。 

  一睡もできず、そのまま白々と明ける夜空を眺めるたびに彼女は思う。

  日が昇っても、それが照らし出す世界は永遠という神のごとき美しさを持った静物画だ、と。

  そこに立つ一本の頼りない水草のような自分自身は、いったい世界にとって何の意味があるのか、と。

  彼女は思わざるを得ないのだった。



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