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2009年3月16日より
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 昔から、見送ることは大の得意だった。
 
 夜遅くまで迎えに来なかった親のために保育園で先に帰る子供を何度も見送ったし、遠くへ転向する友達を見送ったことも何度かあった。そのときの、なんだか殺伐としたどこかさびしい感情はどうにも説明のしようがないけれども、今の今までその感情は言葉にすることすらできないのだ、ということにも気づかずに、ただ経験値だけをため続けているような気もする。
 
 携帯の時計の文字盤の点滅を、さっきから修治はいらいらしながら眺めている。
 
 どうして俺は、いつも見送る側なのだろうか、と修治は思う。どうして、ただ見送ることしかできず、その行為に付随するいやな感情を、ただ押し付けられるままに受容しなければならないのだろうか、と。
 
 見送る、という行為は、取り残されるということにとても似ている、と修治は思う。携帯の文字盤をずっと見ている。
 
 もうすぐ来るであろう彼の幼馴染、今井ミキが来るのを修治はずっと待っていた。
 
 
 
 
 ミキが突然何かを言い出すときには、修治は何も口を挟まないことにしていた。だから、突然彼女が遊園地に行こう、と言い出したときも、修治は何も言わずにただ頷いただけだった。
 
「修治を驚かせることが、二つあるよ」
 
 前日のやり取りの中でミキはそんなことをつぶやいて、「いや、やっぱそうでもないかも」と言って笑った。
 
「修治ってさ、何かいつも無表情だもんね」
 
 修治を驚かせるのって、なんだかんだで難しいよ。とミキはどこか愉快そうに言った。修治はそのことについては否定らしい否定をしなかった。
 
「驚かせることって、なんだよ」
 
 修治が尋ねると、ミキは「それはね・・・」と言いよどんで、
 
「やっぱいいや。明日話す」
 
 とうやむやのまま電話を切ってしまった。
 
 さっきまで耳に当てていた携帯を放り出して、修治はベッドの上に仰向けになった。
 
 なんだか、ミキの様子がいつもと違う、と少し思った。どこがどう、と明確な言葉にできるわけではないが、何かが、決定的に違っている、と修治は感じた。まあ、いいか、と思って目を閉じた。
 
 ミキの気まぐれは、別に今始まったことではないのだから、何も気にすることは無いではないか、とまるで自分に言い聞かせる風にしながら、修治は無表情に天井を睨み付けていた。
 
 
 
 
 待ち合わせた場所に約束の時間より五分も早く着いたというのに、もうそこにはミキの姿があった。
 
「なんだ、珍しいじゃん」
 
「うん、そう?」
 
 携帯をいじっているミキに声をかけると、ミキは手を止めて修治を見た。「いつもは遅れてくるのに」と言うとミキは「まあ、そういうこともあるって」といって携帯を閉じた。
 
「さ、行こ」
 
 ミキの言葉に促されて、切符を買って改札を抜けた。プラットホームに上がると吹いてきた十一月の風は冷たくて、平日で普通電車しか停まらないその駅はなんだか面白いくらいに寂れていた。
 
 電車が来るのを待つ間、ミキはあまりしゃべらなかった。なぜか電車の発着時刻を知らせる電光掲示板を、真剣な表情で睨んでいた。
 
 そのなんだか頑なな横顔を見ていると、修治は自分たちがまだ小学生だったころのことをぼんやりと思い出した。ただ毎日のようにけんかしてよく泣いて、毎日のように仲直りした。あのころの世界はなんとも単純なまわり方をしていて、あのころの延長上に今があるのだと思うことは、出来のよいマジックを見ているみたいに、なんとも現実感が無いと思った。
 
 ただ、それなのに時たま胸を突くこの痛みのほうは現実のようだ、とその痛みの正体もわからないのに、無抵抗に受け入れている自分がいるということも修治は知っていた。
 
「ねぇ、修治」
 
 電光掲示板を一通り睨み終えたミキは、修治のほうは見ないでそう呼びかけた。
 
「途中で乗り換えないでさ、各停で行こうか」
 
「なんでさ」
 
 修治が尋ねても、ミキからの返答はなかった。不思議に思っても、修治はそれ以上尋ねなかった。
 
「まぁ、いいよ」
 
「・・・ありがとう。修治」
 
 そうやってはにかんだ様に笑うミキは、全然ミキらしくないというのに。
  
 幼馴染が突然綺麗になって一瞬ドキリとするような落ち着かなさを、修治は感じた。

 
 続く→
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