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2009年3月16日より
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 やってきた電車に乗り込んで、空いていた席に二人並んで腰掛けながら、しばらく取り留めの無い会話をしていた。普通電車ののろのろとした揺れに身を任せていると、ミキが眠たそうにあくびをかみ殺した。「寝てていいよ。・・・ついたらおこしてやるからさ」と言うと、ミキはふっと小さく笑って「ありがと」と呟いた。
 
 ミキは修治の肩に頭を乗せた。しばらくすると、すーすー言う気持ちのよさそうな寝息が聞こえた。
 
 ミキが眠る姿を横目でみなから、なんて無防備に、無邪気な寝顔で眠るのだろうか、と修治は思った。それはまるで呪いか金縛りか何かのように、修治は身じろぐことすら出来なかった。もしそれが本当だったら、まったくミキはたいした魔女だ、と苦笑した。
 
 
 
 
 
 小学生のころは、それこそ毎日顔をつき合わせる仲だった。中学に入ってそれぞれ別々の友達とつるむことが多くなるにつれ二人でいる時間は段々と減っていったけれど、高校になって離れ離れになると、今のように恋人でもないのに二人だけでどこかへと遊びに行くことが多くなった。そのことについてミキがどんな風に考えているのかを、修治は知らない。二人は異性の幼馴染と恋人との相違点について議論するような関係ではなかったし、いまさら本物の恋人だと宣言するにはあまりにもお互いのことを知りすぎていた。
 
 だから、それは何かの儀式のように、いつまでも続くものなのかもしれない、と修治は思っていたのだった。
 
 電車の中で眠り、自分の肩に頭を乗せてもたれかかってくる幼馴染の横顔を、修治は見る。
 
 こいつは、ずっとこうなのだろうか、と思う。十年先も、二十年先も、こんな無邪気な寝顔で眠るのだろうか。そして、今の修治と同じように、隣に座る人に呪いをかけてしまうのだろうか。
 
 その考えは、どこか切ない、と修治は思った。少し考えて、ずっとミキの隣にいるわけではないのだとわかっているからそう思うのだ、と修治は気づいた。
 
 
 
 
 電車は目的の駅のプラットホームへと滑り込んだ。思っていたよりも時間がかかったな、と考えながら、修治は「着いたぞ」とミキの肩を軽くたたいた。
 
 電車が止まって、扉が開いた。修治はまだ眠りから覚めたばかりのミキを引っ張って、プラットホームへと降り立った。
 
「なんか、結構眠ったな」
 
 とミキがつぶやく。
 
「ごめん。退屈だったんじゃない?」
 
「別に、慣れてるし」
 
 修治がそう答えると、確かにそうなのかもしれない、とミキは妙な納得をして、修治は一人でいても全然孤独を感じさせない人だから、とよくわからない分析をした。
 
「そんなわけないだろ」
 
 と修治が言うと返ってきた「二人でいるときのほうがよっぽど強く孤独を感じる」という言葉の意味はわからなかった。ずっと傍にいたというわけでもないのに、ミキのことなら何でも判るような気になっていた自分がいたことに少し驚く。共有している時間のほうがはるかに長いと思っているのに、自分の持つ認識との齟齬はやはりごまかしの聞かないものだと思う。ミキの言葉に違和を感じたのはそれが初めてで、昔ならそんなふうには感じなかったのだろうか、と疑問に思った。
 
「修治どうかした?」
 
「・・・いや、なんでもない」
 
 考え事をして歩調の遅れた修治をミキが振り返って、不思議そうな表情をした。ミキのその表情は長く続かず、遊園地の出入り口を見つけたミキは修治の腕を取って「早く行こうよ」と実にうれしそうに笑った。



   続く→
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